ねえもう連絡しないで

  ぼくは、いつも溜まっていく膿みたいにあまくて握り続けていた、消し炭になっても。話すことは楽にできても、伝えることはいつだってできない。ちゃんとまっすぐにきみの目を見て話せたためしがない。ぼくは、いつも言いたいこと言おうとすると、怒っているみたいになって、なんだか部屋の温度が下がってしまう。ずっと繰り返して聞いて、浅瀬を泳いでいるみたいだ。

 

  どうせやることないし、ずっとそんな調子だった。部屋に入って重ね合わせたらすぐ、はじけ飛ぶみたいな感覚でとんでいけた。

   もうやめにしようよ、用意しきれなかった言葉は見送ってまた来週、同じ類の後悔をしてもともだちに話せなくて寂しい。なんか聴けない年になったら自然に合わなくなって会えなくなることくらい分かっていたから、カラオケボックスに行って期間限定を買ってもまずいだけで、中途半端な人生設計ですべてに敗れている。

   もうやめにしようよ。こういうのなんかすごく、やってる感じがしてよかったけどさ、だって話が通じなくたってできる唯一のことだった。クラスでもし会ったら体育祭のときくらいしか、たぶん顔も合わせなかった人と重なり合った。喋ったことない人とでも飲み交わせるような自分になって、なんか夏は鬱陶しくて、冷めた目で見られるのが怖い。

 

   結局あの映画の最後はどうなったのって、知ってるくせに首を傾げる動作を、可愛いと覚えさせたのに上手く効かなくていつも、いつも。今ここにあるすべてのものを投げつけて、颯爽と部屋を出ていきたい。振り返らないでちゃんと持続して走ってくれたらなあ、ぼくたちはだれも、好きな曲を聞かない。大して売れていない音楽を聞く。

 

   いつでもはなれてね、次の予定は聞くけど一度だって地元の話はしなかった。センスのない上司と車の中でJ-POPにすくわれた日の話、薄くて怠くて次の日には忘れる話。そういう類の恋の話だけしていたかった。ただ、逃げるみたいに息がしたかった。

   会わない間に聖人になって、いつもそうやってやり過ごす。目を見て話すことができる人が減った。ぼくが集めたキラカードは川辺に流して、早くしないと嫌いなところを忘れてしまいそう。ねえ、聞いてる?

 

   田舎の親戚や中学の同窓会ではなんて説明するつもりとかいう体裁で、簡単に断罪できたらよかったんだけど、ぼくは話せないからわからない。また明日になったら会いたくなって、とりあえず部屋に入って、思い切り飛びかかってみたいなあ、そんなこともできないしなんとなく、伺うみたいにあわせてる。だってぼくはギターも弾けないし、曲を作っても暮らせなかった。本当はぼくだけでもあげられたらよかったけど、売れてるバンドのファーストアルバムを聞く。あの人の新曲はまだ開けない。          

   思考も瞑想も、重ねればどうでもよくなった。それだけが日の光だったみたいに歌詞にできない毎日が、まだずっと捨てきれないままに明日が来て、そのことをしあわせだってわかっている。ねえ、明日は何時にどこだったっけ。ぼくたちはいつも、好きな音楽だけ聞かないでいる。